叔父さんと猫
目が冴えて水でも飲もうと居間を通過して台所へ行こうとしたら
「やあ」と声を掛けられた。
卓袱台の上に猫が居た。いや、語弊があるな。自称「猫」と名乗るイキモノが居た。

「どうしたんだいオジサン。顔が青いよ」

そのイキモノ、もとい フードを目深に被った生首は
にんまりとした笑い顔を崩すことなく飄飄と俺に話しかけた。

「・・・些末な理由だから気にしないでくれ・・・」

ああ、眩暈がする。
どうか悪い夢であって欲しいと願いながらどうにか言葉を絞り出すと

「サマツ?それはおいしいのかい」

ホラーな見た目とは裏腹になんとも脱力系な答えが返ってきた。

少し変わった灰色の猫だった、筈なのだ。けれどもその猫は本当は生首だった。
生首本人はあくまで自分を猫だと言い張るが。
そして猫を招き入れた亜莉子はその非現実的な存在を特に気にせず受け入れている様だが。

この生首を目にするのは今夜が初めてではない。
初めて遭遇した時は眩暈どころではなく、不覚にも卒倒しそうになったところを
「叔父さん、落ち着いて!」と亜莉子に窘められた。
落ち着けるわけねえだろ、馬鹿。

とにかく幾度かの その未知との遭遇を経て恐怖は大分薄れていた。
寧ろ「怖い」というよりも「変な奴」という形容詞の方が当てはまる事も分かってきた。
けれどだからってこんな非現実を受け入れていいのか? 何かこれ現実を激しく逸脱してないか? 
亜莉子みたいに順応性が高い人間じゃあ無いんだよ、俺は。
俺は頭を抱える。
いい加減亜莉子が羨ましくなってきた。


深く考え出すと頭がおかしくなりそうだった。
台所から1本だけ残っていた発泡酒の缶とコップを持ってきて
居間に腰を下ろすと、コップに酒を注いで一気に飲み干した。
・・・うげ、苦い。俺はもともと酒に強い方ではない。
それでも素面ではやっていられるわけがない。
そんな俺をまじまじと凝視して、再び「猫」は

「おや、オジサン 今度は顔が赤くなったよ」

と言いつつ、卓袱台の上をころころと転がって缶に残った発泡酒を器用に飲み干した。そしてぷはーと息を吐いて一言。

「スルメと合いそうだね」

「・・・お前オッサンくさいよ」

思わず突っ込んでしまった。
俺はもう正常な感覚を失いつつあるのかもしれない。





コンセプトはお馬鹿な猫と常識人な叔父さん。
大丈夫だよ叔父さん、受け入れ難いのが普通です。亜莉子はその辺の感覚が常人を超越してますよね(笑)
1とか書いてますが続くのかなコレ・・・。
えっと とにかくすみませんすみません・・・!(土下座)